騙された新人女優とマネージャー
第二部
二十四
杉崎が階段下に到着して、何気なく見上げようとした時に階段を降りて来る由里と目が合ってしまう。慌てて途端に目を逸らそうとする杉崎に由里がにっこりと微笑みかける。
「あ、お・・・、お疲れさまでしたぁ。」
「お疲れさまですぅ。ありがとうございましたぁ・・・。」
屈託ない由里の笑顔に杉崎は余計にどぎまぎする。
(やっぱ、俺の見違えかなあ。あんな顔してノーパンで本番に出れる筈ないもんな・・・。)
杉崎はスカートの中を確かめる為にさり気なく覗き見しようとしていたことさえ忘れていた。
「あ、由里ちゃん。お疲れ様でした。」
「ああ、新垣さん。何とか無事に終わりました。どうでした、私の受け答え?」
「あ、ごめん。番組の途中で深沢さんの事務所から電話が掛かってきちゃって。スタジオの外に出ていたの。でもいい知らせよ。今度の映画、決まったって。勿論、主演よ。」
「え、ほんとですか? でも、まだオーディションもしてないのに・・・。」
「オーディションはほんの形式的なものなんですって。深沢先生が強く推してくれたんで、それで決まりなんですって。先生、貴女のドラマを一目見て気に入ったらしく『よし、この娘で行こう。』って言ってくださったんですって。」
「そうなんですか。でも、新垣マネージャーのおかげだと思います。ありがとうございます。」
「あら、わたしなんて。何の役にも立っていないわよ。」
そう言いながらも茉莉は先日の個別面会が功を奏したのだと内心得意気になる。
「早速深沢先生にお礼を言いにいかなくちゃならないから、今晩も独りで帰ってね。」
「あ、それはいいんですけど。私も一緒に行ったほうがいいんじゃ・・・?」
「でも、今日は撮影があるでしょ。この所ドラマの撮影もだいぶ押しているみたいだし。大丈夫よ、今度二人で改めてお礼に伺いましょ。」
「そうですね。わかりました。じゃ、宜しくお願いします。」
マネージャーにぺこりとお辞儀をすると由里は控室に着替えに戻るのだった。
控室に戻った由里をスタイリストの虻川が待ち受けていた。
「あ、由里ちゃん。撮影、お疲れ様でした。はい、これっ。」
そう言って虻川は小さな紙袋を差し出す。
「え、何っ?」
「ごめんなさいね。気がつかなくて。あ、それ。気にしなくていいから。受け取っておいて。」
そう言うと虻川は由里が返事をする間もなく由里の控室を後にしてしまったのだった。由里が袋の中を検めると中に入っていたのはコンビニで売っている緊急用のショーツと生理用ナプキン1パックなのだった。
(そうだ。私、パンティを穿いてなかったんだわ。あ、そうか・・・。虻川さんたら、急な生理が来てショーツを汚してしまったのと勘違いしたのね。)
生理用ナプキンはともかくもうすぐドラマの方のリハーサルが始まる由里にとって、下着を買いに出る時間が無い身にはありがたかった。
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