mooncrusade

ムーン、無残!!



第四章




 「ムーン・・・。いや、う、うさぎっ・・・。」
 秘密の宇宙基地で画面を食い入るように見ていたムーンを除く四戦士の一人が、思わず声を挙げた。妖魔たちからと思われる匿名の電子メールが届いたということで急遽集められた女戦士たちだった。電子メールに添付されていた画像に映っていたのは、思いもかけない変身する前のムーンの惨めな姿だった。
 「まわりに居るこいつ等、妖魔じゃないわ。人間の悪党共よ、間違いなく。」
 「だから、ムーンも変身していないの?それだからって、人間相手にこんな酷いことされてしまうなんて。」
 「しかも、自分から・・・、自分の口から・・・。」
 最後はSマーキュリーだった。しかし最後まで言い切ることは出来なかった。それはその画像を見ていた四人共が思ったことだ。しかし自分で口にすることが出来ないでいた。無様に曝された人間の姿でのムーンの恥部。そこにはあるべきものがなかった。それを皆が判っていて口に出来ないでいた。
 「で、でも。ムーンはこの悪党共と戦っていたんだわ。相手が人間だから変身はせずに。それで、奴等に捕まって、捕らえられているのよ。」
 「でも、さっき・・・。確かに自分の口からお願いしていたわ。」
 (私の股の毛を剃り落してください)確かにムーンが悪党共にそう頭を下げてお願いしているのを聞いている。それは夢うつつではなかった。
 「そんなこと、うさぎが自分から言う筈がないじゃない。言わされたのよ、きっと。」
 Sジュピターが憤慨してそう言い放った。しかしジュピター自身もムーンが易々と人間達に捕まり、恥ずかしい言葉を言わされてしまうなどとは信じたくなかった。
 「とにかく助けにいかなくっちゃ。」
 再度、皆に結束を促すようにきっぱりと言い放ったジュピターだったが、皆の反応は鈍かった。
 「罠かも知れないわね、これは・・・。」
 こういう時のまとめ役であるSヴィーナスが慎重に言う。
 「でも、だからと言って、Sムーンを見捨てる訳にはゆかない。私達の仲間だもの。いいわね、みんな。」
 ヴィーナスの言葉に、今度は力強く頷く戦士たちだった。

 画像を送ってきたメールの最後には、日時と場所が指定されていた。富士山麓の樹海の奥にある森の中だった。やってくる条件として丸腰で来ることが指示されている。これは変身することも、ムーンスティックや幻の銀水晶などの武器を使うことも許されないことを意味していた。ヴィーナスは他の三人にもムーンの無事が確認されるまでは、絶対に変身したり武器を持ったりしないように申し合わせをしたのだった。

 生身の人間のままセーラー服に身を包んだ4人の女戦士たちが、指定された森の中に開けた広場に到着したのは、夕暮れ時近かった。広場の真ん中に太い丸太で出来た杭が頑丈な台の上に設置されていた。その上部には杭と直角の方向に三角形に削られた枝柱が据え付けられている。ムーンは脚を開いて将にその三角形の柱を跨ぐようにして縛り付けられているのが遠目にも観てとれた。ムーンの下半身は着ていたものは全て剥ぎ取られていて、剃り上げられた股間を覆い隠すものは何もない。三角形の角が上を向いて、ムーンの剥き出しの股間を今にも裂かんばかりにしている。よく観ると三角形の柱を跨いでいる腿の先には、足首のところに足枷が嵌められていて、そこから鎖で重そうな錘が垂れ下がっている。ムーンの表情が苦痛で引き攣っているのは、その錘とムーン自身の体重で堪えられる限界に来ていることを示していた。そして、よく観ると、その錘を吊るした足首のすぐ脇に、更に重そうな錘が足首に嵌められた足枷に別の鎖で繋がれている。その重そうな錘は据えられた台の上に不安定ながら置かれているのだが、その台は、何処からか遠隔操作で横に倒れるようになっているのは明白だった。ムーンは中世の魔女狩りに使われたような股裂き拷問具に磔にされていたのだった。
 ムーンを救う為には、錘の台が外されてしまう前に戦士たちでその錘を手で支え、足枷から外してやるしかない。しかし、戦士たちが立っている広場の端にあたる森からムーンが磔にされている広場の中央まではかなりの距離があり、走って間に合いそうな距離ではなかった。

syokei

 「よく来たな。女戦士たちよ。」
 突然、森の何処からともなく声が聞こえてきた。その声はダークカインのものでも妖魔たちのものでもなかった。どうも広場を囲む森の何箇所かに拡声器になったスピーカが据えつけられて同時に音を出しているようで、敵が何処に潜んでいるのか判らなくしているのだった。
 「ムーンを股裂きから救いたければ、丸腰のまま前に進み出るんだ。ゆっくりとな。」
 リーダー格のヴィーナスが辺りを見回す。が、敵は何処に潜んでいるのか皆目判らない。広場に出てしまえば、自分等の動きは森に潜んでいる敵たちからは丸見えの筈だ。迂闊なことは出来ない。しかし、前に進むしかなかった。
 「みんな、少し離れて私に付いてきて。ゆっくりよ。ゆっくり進むのよ。」
 四人の戦士が目配せで頷きあう。戦士といっても、変身していない今は、丸腰の女子高生に過ぎない。何処から襲ってくるか判らない敵を見張りながら、四人は互いに背を向け合って、輪のようになりながら、徐々に中央に磔になったSムーンのほうへ近づいてゆく。
 半分ほどまで近づいたところで、それまで叢むらに隠れてみえなかったものが見えてきた。背の低い小さなテーブルが少しずつ離れて四つ置かれている。
 「その四つのテーブルにそれぞれ一人ずつ近づいてゆけ。」
 再び何処からともなく拡声器の音が流れてきた。
 「テーブルの上のものをそれぞれ後ろ手に装着するんだ。さもないと、錘を落とすからな。」
 野太い男の声が言い放った。
 「こ、これっ。ダークシリスじゃないの。これ嵌めたら変身出来なくなっちゃうわ。」
 「どうする、ヴィーナス。これは、奴等の罠よ。」
 「でも、ムーンが股裂きにされちゃう。どうしよう。」
 三人の視線がヴィーナスに集中する。ヴィーナスはもう一度四方に目を巡らせる。が、敵の姿は何処にも見えなかった。
 「仕方ないわ。とりあえず、相手は人間の悪党よ。まだ戦えるチャンスはあるわ。ここは取り合えず奴等に従っておこう。」
 ヴィーナスはそう言うと、一番近くにあったテーブルからダークシリスと呼ばれる電子手錠を取り上げる。何処から見られているか判らないので、下手な小細工は出来ない。手錠を嵌めた振りは通用しないのだった。
 「みんな、いいわね。」
 そう言うと、ヴィーナスは自ら率先して後ろ手に電子手錠を嵌める。それをみた三人もそれぞれにテーブルからダークシリスを取り上げると自分の両手に嵌めるのだった。四人共が両手を後ろに拘束されてしまうのを見届けたかのように突然四人の足許で叢むらから縄の輪が現れて、夫々の足首を捕らえてしまう。予め見えないようにテーブルの近くに隠されていたものだった。戦士たちが飛びのくようにそれを避けようとしたが、気づいた時には既に足首にしっかり食い込んでしまっていた。巧妙に仕組まれた罠だったのだ。
 「ヴィーナス。」「マーキュリー。」「ジュピター。」「マーズっ。」
 夫々がお互いを呼び合っていたが、四人共が罠に嵌められたのを確認しただけだった。
 振り返って既に磔にされていたムーンのほうに向き直ったヴィーナスは、その姿が忽然と消えているのに気づいた。
 「しまった。立体ホログラムの幻像だったのね。」
 ヴィーナスがムーンの姿を見ていた先に代わりに見つけたのは、地面から打ち立てられた4本の高い杭だった。その杭の頂上には滑車が付けられていて、自分たちの足首を捕らえた縄がするするとその滑車に引かれてゆくのが判る。縄で牽かれまいと必死で抵抗するが、手が使えない為に抵抗しようがない。四人はそれぞれにずるずると引き離されながら杭に向かって引き寄せられていく。

 拘束され、股裂き杭に繋がれてしまったムーンの目の前には、ムーンの様子を幻像で映し出す為のホログラムカメラと共に、蜘蛛の巣に吸い寄せられ搦め捕られていく蝶のように、罠に嵌まって捕らえられてゆく仲間の戦士たちの様子が映し出されるモニタスクリーンがあった。
 「あうう、あうう・・・。」
 (駄目、近づいてきては駄目よ。やつらはダークシリスを用意して待ち構えているの。早く変身してっ。)ムーンは心の中でそう大声で叫んでいるつもりだった。しかしムーンの口からは声にならない呻きしか出て来ない。先ほど無理やり口を開けさせられ舌に打たれた麻酔針のせいで、痺れて声を出せなくされてしまったのだった。
 今しもムーンの目の前で、変身する力を奪われた戦士たちが捕らわれの身になろうとしている。ムーンは股間を襲う激しい痛みもこの時は一時忘れて、見入っていたのだった。

 電動ウィンチによって女戦士たちはそれぞれの杭のすぐ下まで引き寄せられてしまっていた。ウィンチは自分の背丈の倍以上もある杭の真下に立っても尚、巻き上げてゆくので、戦士たちは杭の足許で片脚を上げさせられる格好にされ、漸くそこで牽かれるのが停まった。片脚立ちの不安定な格好で、両手は後ろ手に拘束されていて、とても戦闘出来るような態勢ではなかった。そんな格好の女戦士たちに漸く男達が森の奥から姿を見せた。

 男達は源蔵という男を頭にした稲葉組と呼ばれる暴力団だった。両手と片脚を拘束された女戦士たちに近づいてきた男達は手に手に、竹刀や木刀、鞭などを携えていた。武器を観て、戦士たちは不自由ながらも身構えようとする。しかし、足首を吊り上げられている為に、出来ることは後ろでに杭を掴んで、肩を低く構えることぐらいしかない。
 「うまく予定どおり全員を生け捕りに出来たようだな。まずは少し弱らせてからしょっぴくとするか。」
 「いや、その前に少しお楽しみがあってもいいんじゃねえか。なあ、頭っ。」
 そう言った男は、頭と呼ばれた源蔵にむけて、にやりと相好を崩して顎をしゃくる。
 「まあ、ちったあいい思いをさせて貰うのもいいかもしれんな。こんな別嬪さんたち、なかなか手に入らないしな。但し、油断はするなよ。」
 源蔵がそう言うと、提案した男は手にしていた竹刀を下に捨てて、マーキュリーの胸元に飛び掛る。
 「きゃっ、嫌よ。」
 いきなりセーラー服の上から乳房を両手で掴まれたマーキュリーは身を反らして逃れようとするが、手も足も出せない。それを観ていた別の男は、一番近くのジュピターのスカートの中に手を伸ばした。
 「嫌ぁっ。何するのっ・・・。」
 股間を掴まれたジュピターだったが、身をよじるだけで逃れることも出来ない。
 マーズにも男の一人が近づいてきていた。
 「嫌よ。近寄らないで。」
 「へっへっへっ。さあ、気持ちよくさせてやるぜ。」
 男はいきなりマーズの首を抱え込むと、口を尖らせてマーズの唇を奪おうとする。マーズは必死で顔を背ける。
 最後に源蔵がヴィーナスに近づいてゆく。ヴィーナスは源蔵を睨みつけ腰を低くして身構える。
 「そうりゃあ。」
 源蔵が飛び掛るのと、ヴィーナスが背中の杭に繋がれた脚のほうで、杭を支点に飛び上がり、源蔵の腹めがけて、自由なほうの脚を蹴り上げた。鋭いキックが見事に決まって源蔵はその場に崩れ落ちる。ひらりと地面に片脚で着地したヴィーナスは背中で杭を掴み直し、次の攻撃へ向けて体勢を立て直す。
 「あっ、頭。」
 いきなりの蹴りにやられた頭のほうへ振り向いた男は、マーキュリーから目を離していた。マーキュリーはヴィーナスの技を真似て吊られた足先を、杭の途中を支点にして飛び上がり、ブーツの踵を男の脚先目掛けて振り下ろした。
 「あぎゃうぅぅぅ。」
 脚を踏みつけられた男はもんどりうってマーキュリーから身を離す。しかし戦士たちの攻撃もここまでだった。
 「おい、皆んな。一旦女どもから離れろ。」
 マーズの首根っこを捉えていた男がマーズを突き放すようにして身を離しながら声を掛けた。男達は一斉に戦士たちを繋いだ杭から身を離す。
 「うううう・・・・。」
 腹に一撃を受けた源蔵はまだのた打ち回っていた。

続き


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