tiedmoon2

ムーン、無残!!



第一章



「パンツを脱げ。」
 男の命令は、あまりにも唐突なものだった
「パ、パンツを脱げって、どういうつもり・・・。」
 ムーンの動揺を余所に、男は不敵に言い放った。
「言った通りのことさ。スカートの下の穿いているものを脱げということさ。」
 ムーンは一瞬判断に迷った。
「な、何を言っているの。そ、そんな事、聞く訳がないでしょう・・・。」
 そう言いきったムーンだったが、状況はムーンにはとても不利な事は明白だった。
「こいつがどうなってもいいっていうんだな。」
 男がそう言うと、捕虜として捕えられているちびうさの首筋にあてているナイフを横にすっと引く。首筋から赤い血がたらりと流れ落ちる。
「ま、待って・・・。」
「ふん、どうした。ムーン。言う事を聞く気になったか。」
 男達は人間界の悪党たちだった。だからこそ、変身はしないで、人間の姿で戦ってきたのだった。生身の身体でも、男達を打ち負かす自信はあったからだ。事実、あと一歩で全員を倒せるところまできていたのだ。
 男のナイフはぐったりしたちびうさの首にしっかり当てられていた。今から変身しても間に合わないかもしれない。もはやどうしようもない状況だった。今は命じられるまま、従うしかなかった。
 変身しない生身の人間の姿のうさぎは、普通のセーラー服のスカートの下にショーツを穿いているだけだ。そのショーツを曝すだけでも女戦士とはいえ、とても恥ずかしい。
「わ、判ったわ。そのナイフを動かさないで。」
 ムーンは男に鋭い視線で睨みかえす。しかし、男等を一瞬はひるませたものの、状況の不利さを改善するのには何の役にも立たなかった。
 ムーンは口惜しさに唇を噛み締めながらも短いスカートの裾に手を伸ばす。尻のほうからスカートの中に手を入れて、ショーツの端を掴み、ゆっくり下のほうに引き下げる。ショーツが裾より下の腿の途中まで引き下げられて顕わになってしまうと、男たちの視線は俄然、ムーンの無防備な下半身に集中してきた。誰のものとも知れぬ、ゴクンと生唾を呑みこむ音がムーンの耳にも入ってくる。
 「さ、早く、そいつを脚から抜き取りな。」
 男たちの命令はあくまでも非情だった。
 「くっ・・・。」
 ムーンの置かれている今の状況では、従わざるを得ない。
 片脚ずつ上げて、ショーツから足を抜き取る。
 「さ、こっちへ投げて寄越しな。」
 ほくそ笑んでいる男たちに悔しい思いをしながらもムーンは従うしかなかった。汚れてしまっているかもしれない内側を極力隠すように丸めて、ムーンはたった今まで穿いていたショーツを敵の前に差し出すように投げて与えたのだった。
 「じゃ、今度はこいつを嵌めて貰おうか。」
 男が床を滑らすようにムーンの足許に投げて寄越したのは電子手錠だった。ダークシリスと呼ばれるそれは、そこから発せられる電磁力が作る結界によって、女戦士から変身する力を奪ってしまうものであることをムーンはよく知っていた。それを嵌めてしまえば、完全に両手の自由は奪われ、戦闘能力の殆どを喪ってしまうに等しかった。
 「それはダークシリスじゃないの。何故、人間のお前達がそんなものを持っている?」
 「これはダークカインという奴から預かったのだ。女戦士と戦う時には役に立つって言ってたぜ。」
 「むむ、なんてことを・・・。」
 ダークカインはミニムーンの加勢を得たことで、ムーンたちがかなりの痛手を与えていた。あと一歩で魔力を封じ込めるところまで来ていた筈だった。それをこの連中のおかげで邪魔されてダークカインを逃してしまったのだ。おまけにミニムーンも力を使い果たしてすっかり消耗してちびうさに戻ってしまっていた。そのちびうさが人間の悪党共に逆に捕らえられてしまった為に形勢が逆転してしまったのだった。
 (まさかあのダークカインが逃げる時にこいつらにダークシリスを託していたなんて。)
 それはムーンにとって、唯一の油断だったかもしれなかった。

 「分かっているだろうが、勿論、後ろ手に嵌めるんだぜ、いいな。」
 男が言っていることは、全くの無力の状態で自分の身体を差し出せと言っているのに等しかった。しかも今のムーンにはそれに従うしか無いのだった。
 「くっ、くそう・・・。」
 男たちを睨みつけながらも、捕らえられたミニムーンの姿に、男たちの非情な命令に従うしかないムーンだった。
 ガチャリ。非情な音とともに、ムーンの両手が自らの手で後ろ手に拘束される。最早抗う手立ては何も無いに等しかった。しかも短いスカートの下は無防備なノーパンなのだった。
 「どうだ、ノーパンで両手の自由を奪われた気分は。スカートの下がすうすうして気持ちがいいだろう。えっ、どうした。さっきまでの威勢の良さが無くなってきたみたいだぜ。」
 男の言うのは図星だった。手錠で後ろ手に拘束されてしまって自ら攻撃を仕掛けることどころか、身を守る防御すらままならないのだ。しかも不用意に動けば、生まれたままの股間を覗かれてしまいかねない。男がじわり、じわりと近寄ってくるのに、一歩ずつ後退りしてしまうのだった。
 男の手が急にムーンの腰の方に伸び、一気にスカートの裾を捲り上げようとした。
 「きゃっ・・・。」
 ムーンは男の意図に気づいて、飛びのいて何とか逃れる。
 「な、何するつもり。」
 ムーンは再び男のほうを詰と睨みつける。捲られそうになったスカートの裾の前を手錠さえなかったら必死で抑えていただろう。しかし、それも叶わず、後ろに逃げるしかなかったのだ。
 「スカートを捲られるのは恥ずかしいか。しかし、こんなスカートめくりみたいな遊びごとじゃ、女戦士には似つかわしくないな。女戦士には女戦士らしく、闘いをさせてやろうじゃないか。おい、のびているそいつを起こせ。」
 床に横たわっていたのは、先ほどムーンが強烈な回し蹴りで脳震盪を起こさせた男の手下たちだった。
 「やい、起きろ。いつまでのびているつもりだ。」
 「ううっ、くそう。まだ頭ががんがんするっ・・・。」
 床にのびていた手下の一人が漸く立ち上がる。焦点が合わなかった眼が次第に直ってきて、離れたところに立ち竦んでいるムーンの姿を捉えた。
 「おっ、お前っ、ムーン。畜生、さっきはよくもやってくれたな。」
 「おお、やっと正気に戻ったか。このままじゃ、お前も男が廃るだろ。リベンジしたいんだろ。させてやるぜ。さ、武器はこの竹刀だ。公平にムーンにも持たせてやる。」
 男はそう言うと、倒れていた手下とムーンのほうにそれぞれ一本ずつ竹刀を投げてよこす。
 「し、竹刀ですって。そ、そんな。こんな手錠を嵌めさせておいて、竹刀で戦わせようっていうの。」
 ムーンは自分の前に投げて寄越された竹刀を拾い上げることもしなかった。後ろ手で持ったところで、あっという間に叩き落されるのは火を見るよりも明らかだった。もう一人の手下のほうは、既に竹刀を取り上げて、びゅんびゅん音を立てて振り回し始めた。
 「ひ、卑怯よ。こんな戦わせ方なんて。」
 「さ、いくぜ。」
 ムーンがどうにも出来ずにただ睨んでいるだけなのを尻目に、手下の男は竹刀を振り上げてムーンに立ち向かってきた。
 「そりゃあ。」
 振り回された竹刀が、身を反らせたムーンの前で空を切った。取りあえずのところ、ムーンには身体を避けて逃げ回るしかない。逃げながらも相手の隙を伺っていた。手下の男の竹刀はやみくもだった。振り回した竹刀をかわされた直後に一瞬の隙が出来るのだ。それをムーンは計っていた。男が次の一振りの構えをしていた。
 「これでもくらえっ・・・。」
 今度もムーンの肩元めがけて竹刀が水平に振り回されてくる。それを身を落としてかわすと、身体を回転させて回し蹴りを決めるために片脚をあげる。
 「おおっ・・・。」
 その瞬間に男たちのどよめきが周り中から沸き起こった。回し蹴りは手下の男の肩を掠めただけで、完全には決まらなかった。声のした方を振り向いたムーンの目に映ったのは回転して翻ったスカートの奥を覗き込んでいる男たちのぎらぎらした視線だった。
 「きゃっ、嫌、みないで。」
 慌てて身を竦めるムーンの姿に男たちからがさつな笑い声が沸き起こった。
 「おい、見えたよな。今。しっかり。」
 「いい眺めだったぜ。なんせ、何も穿いてないんだからな。ばっちり丸見えだ。」
 「おい、お前、もっとムーンに回し蹴りさせて、俺たちを楽しませろや。」
 不用意に脚を上げたことで、とんだ失態を見せてしまったことでムーンも慌てていた。そしてその時やっと、パンツを脱がさせたことの意味を悟っていた。脚は自由にして得意の回し蹴りを封じておかない代わりに、すれば辱めを受けねばならない状況を作っていたのだった。
 男たちはムーンの痴態を見逃すまいと二人の対決に注目している。少しでもスカートの奥が見えるようにと車座になって胡坐をかき、下から見上げるようにしてムーンのスカートの裾に注目しているのだった。
 「そんな。ひどいわ。こんな格好で戦わせるなんて・・・。」
 しかし、男たちは容赦なかった。
 「おい、お前。ムーンの脚を狙え。」
 仲間から声を掛けられた手下の男は、竹刀をムーンの足首めがけて振り下ろす。
 それを瞬時に避けて、飛び上がるムーンだった。しかし、ひらりと飛んで床へ身を落とす際にスカートははらりと翻ってしまう。
 「おおっ、もう少しだ。」
 「いいぞ。もっと足許を狙ってジャンプさせろっ。」
 「ようし、任せておけ。そりゃ、そりゃ、そりゃっ・・・。」
 手下の男がムーンの足許ばかりを狙うので、その度に飛び上がらざるを得ない。その度にスカートがひらひらと翻ってしまうのだ。
 「おう、また見えたぞ。」
 「女戦士もおまたにはちゃんと毛が生えてるんだな。」
 「俺には割れ目の間にピンクの襞がばっちり見えたぜ。」
 観衆になっていた男たちから次々にムーンを辱める声が掛かる。その度にムーンの顔が真っ赤になってゆく。
 (このままでは、恥ずかしい格好を晒してしまうだけだわ。何とかしなくちゃ。)
 ムーンは目の前の男が自分の足許にばかり気を取られているのを見て取った。
 (今だわ。)
 ただ、竹刀をかわして、飛び上がっているだけだったムーンの身体がふわっと宙に飛んだ。次の一瞬、ムーンのブーツが竹刀を持った男の喉下に飛び蹴りを食らわせていた。
 「うえっ・・・。」
 スカートが完全に捲りあがってノーパンの股を晒してしまうことも覚悟のうえの捨て身の攻撃だった。
 「ひゃっほう、丸見えだったぜ。」
 受身の格好で身体を丸めて、床に転がりこんだムーンはさっと体勢を立て直す。折った脚をすぼめるようにして翻ったスカートを元に戻す。顎を蹴られた男は再び脳震盪を起こして、床に倒れこんでいた。
 その姿を確認したムーンもはあ、はあと肩で息をしている。

続き


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