ソファ膝開き

良子
 - 警察手帳を奪われた女巡査





第五章 本物の女警官

 四

 「篠原、良子さあ~ん。」
 遠くから自分を呼ぶ声に、良子は事務処理をしている自分のパソコン画面から目を上げる。同僚の美咲が遠くから手を振っていた。良子はパソコンをスリープモードに落しておいて、席を立つ。
 「何か、是非、篠原さんでお願いしますって、良子ご指名で担当して欲しいんだって。」
 そう言って美咲が顎で差し示したのは、良子たちが所属している生活安全課の事務所があるフロアの隅の応接ソファの方だった。
 「ついこの間も良子のことを電話で問い合わせてきた人がいたけど、何か覚えある?」
 そう同僚の美咲に言われて、良子は内心ぎくりとする。
 「やばそうな人って感じじゃなかったみたいだけど、警察官個人を指名してくるなんて。ちょっと気を付けたようがいいかもよ。」
 美咲はちょっとからかう様な言いくちでそう良子に告げる。
 「わかったわ。行ってみる。」
 応接用のソファは仕切りこそないが、観葉植物の鉢を幾つか置いて相談者のプライバシーをある程度保っている。
 「あの篠原ですが。私に何か相談事があるとか・・・。」
 観葉植物の隙間を擦り抜けて良子が応接用のソファに座っている男の前に出る。一応名刺を持ってきていたので、見知らぬ初老の男だったが名刺を差し出しながら男の正面に座る。男の目が一瞬ぎらりと光ったような気がした。
 「やはりここにお勤めでしたか。」
 見知らぬ男だったが、ひと声聞いただけで誰なのかを確信した。
 「あ、あなた・・・。」
 「ほう、やはり声は憶えていましたか。アンタには顔は見せなかった筈だから。」
 良子は悔しさが沸々と蘇ってくるのを感じていた。
 「な、何の用があってこんな所まで・・・。」
 「ま、これをちょっと見てくださいな。」
 男はそう言って、持参してきたらしい書類入れのような紙の袋の中から一枚を取り出して低い応接テーブルの上に置く。それは裏側らしくわざと伏せて置いた様子だった。
 「な、なんですか・・・。」
 良子は思わず声が震えてしまう。
 男は良子を試すような表情をしながら薄笑いを浮かべる。そしてテーブルの上の紙の端をちらっとだけめくって見せる。一瞬、女性の脚のようなものが見えた。
 「あっ、そ、それは・・・。」
 紙の半分ほどしか見えなかった。しかしすぐにそれは良子が自らスカートの裾をまくらされて撮られた写真であることに気づいた。
 「この中に同じもものが40枚ほどコピーしていれてあるんだ。」
 「・・・・。」
 「アンタの対応によっちゃあ、この袋の中身をここでばら撒いてみせてもいいんだぜ。」
 「な、何が目的なの・・・。」
 思わず良子は小声になる。ちらっとだけ周りの様子を確認する。すぐ近くには人が居ないものの、大きな声を出せば聴かれてしまうぐらいには何人もの人間がいる場所である。
 「小声になったところをみると、察しがついたようだな。」
 そういいながら、真正面に座る良子のぴったり閉じられた膝元をじろりと見つめている。
 「まずはその膝を少し開いて貰おうかな。両手は横に垂らしておくんだ。」
 「な、何ですって・・。そんな事・・・。」
 「私の言う事を利くもきかぬもアンタの自由だ。さ、どっちを選ぶ?」
 「くっ・・・。こんな所で・・・。」
 良子は冷静になろうと努める。しかし心臓がバクバクと音を立てているのが判る。
 「さ、どうする?」
 男が詰め寄る。良子は男に命じられたからとも、自分から自然にとも取れるような素振りでゆっくり膝頭を緩める。恥ずかしさに顔を上げる事も出来なかった。
 「もっと・・・だな。そんなんじゃ・・・。」
 男の言いくちに良子は唇を噛みしめる。仕方なく更にもう少し両膝を広げる。誰かこちらを見ているのではないかと思うと冷や冷やせざるを得ない。制服なのでそんなに短い訳ではないが、タイトなスカートなので座れば裾がずり上がってしまう。膝頭は完全に剥き出しだが、膝を広げればどこまで覗いてしまうかしれなかった。両手を膝の上に置いて隠したかった。しかしそれは許されていないのだ。
 「ここは、警察なのよ。わかってるの・・・。」
 小声だが、良子は毅然として言ったつもりだった。しかし語尾のほうは震えていた。
 「警察だからって、アンタ俺を捕まえることが出来るとでも思ってるのか? え、何の罪で? 公序良俗違反の猥褻行為の現場を撮った写真を持参してきた男を、その猥雑行為をしてる本人が捉まえるとでもいうのかい?」
 「うっ・・・。」
 将にぐうの音も出なかった。とにかくこの場は穏便に乗り切るしかない、そう思った良子だったが、自分には何の切り札もないのは自覚せざるを得なかった。
 「ほう、白いパンツか。」
 低いソファなので、腰が沈み込んでいる。膝のほうが高い位置にあるので、開けば自然と奥まで覗いてしまっているようだった。
 「何時から穿いているんだ、その下着は?」
 「しっ。大きな声を挙げないで。・・・。お願い・・・だから。昨夜からよ。・・・。どう、それでご満足?」
 「まだ半日か。半日ぐらいじゃ汚れてないかな。その裏側。クロッチの内側だよっ。」
 「な、何て事を言うの。」
 「男にパンツ、見られて恥ずかしくないのか? 恥ずかしいだろ。でも、恥ずかしければ恥ずかしいほど、あそこが濡れてくるんだろ。ほら、こうしてる今も、ジュク、ジュクって汁があそこから染み出て来てる筈だ。」
 「嫌っ。言わないで、そんな事っ・・・。お願いっ。もう私を辱めるのは赦してっ。」
 良子に出来るのは頭を下げて頼み込むことだけだった。
 「それじゃあ、俺がこれから言う事をちゃんと聞いたら今日はもう赦してやろう。いいか。」
 良子は顔を上げて男の顔を見る。
 「ここに紙袋が用意してある。今からトイレに行ってパンツを脱いで、こん中に入れて持って来い。5分だけ待ってやる。5分で戻って来なかったら、こっちの袋の中身をばら撒いてやるだけだぞ。」
 良子には選択肢は無かった。小さな紙袋をひったくるようにして持つと、席を立つ。何か言い返したかったが、言うべき言葉は見つからない。一瞬男を睨みつけただけで、踵を返して女子トイレに急ぐ良子だった。
 女子トイレは幸い誰も居ないようだった。さっと個室に入る。しかし、男に言われたことを実行すべきかはまだ迷っていた。そんな事に屈してしまえば、男の要求はどんどんエスカレートするに違いないとも思っていた。しかし、男が逆上したらどんなことになってしまうのか、考えただけでも恐ろしかった。
 良子はもう何も考えないようにしてハイヒールのバックルを外すとストッキングを抜き取る。そして大きく深呼吸してからパンティを抜き取ったのだった。

 「はい、どうぞ。ご所望の品です。もう、これで十分でしょ?」
 そう言って、良子は立ったままソファにふんぞり返っている男に紙袋を渡す。立ったままなのは早くそれを持って帰れという意志表示だった。
 男は悠然と紙袋を受け取ると、ちらっと中身を確認してから背広の内ポケットに大事そうに仕舞い込む。それからおもむろに立上ると、良子の肩をぽんと叩いてから歩き出す。
 「邪魔したな。また来る。」
 そう言い捨ておくようにして振り向きもせずに歩いていく。その男を追うことも出来ず、茫然と立ち尽くすしかない良子だった。
 20mほど離れてから男は通路と事務机が並んだエリアを隔てるキャビネットの上に乗り出すようにして声を挙げた。
 「どなたか遺失物担当の方は居ませんかあ。」
 良子は一瞬何が起きようとしているのか、わからなかった。
 男性警官が一人、机から立ち上がると男に近づいていく。男は背広の内ポケットに手をやっていた。男がしようとしている事に気づいて、良子は蒼然となった。
 「駄目ええっ。や、やめてえ・・・。」
 思わず走り出していた。しかし、良子がその袋をひったくろうと手を伸ばした直前に袋は男性警官の手に渡ってしまっていた。
 「何ですか? これは。落し物・・・?」
 そう言って男性警官は中身を検める。
 「ああ、そんなこと・・・・。」
 良子はあまりの仕打ちに膝から崩れ落ち、顔を両手で蔽ってしまう。
 (ああ、もう駄目っ・・・)
 と声を挙げようとして、ふっと目が醒めた。
 ベッドから上半身を起こすと、まだ心臓がばくばく高鳴っていた。
 (夢・・・、だったのね。)
 良子は自分が夜の公園で解放され、明け方近くまで掛かって手錠の鍵を後ろ手で探り当て、やっと自由の身になれた時からまだ数時間しか経っていない事に気づいたのだった。手錠を外してから目隠しを取ると、近くの樹の枝に自分の制服のスカートが掛けられているのに気づいた。ノーパンのまま、スカートを身に着けると一目散に自分のアパートまで逃げ帰ったのだった。あまりのショックに、服も脱がないままベッドに潜り込んで泣きながら寝てしまったのだった。


第六章へ TOP頁へ戻る


ページのトップへ戻る