自捲り

良子
 - 警察手帳を奪われた女巡査





第五章 本物の女警官

 二

 良子が目隠しをされたまま連れ込まれたのは何処かの廃ビルのようだった。狭い通路のような所を手錠を掛けられたまま両腕を両側から捉えられて歩かされ、エレベータを使って地下へ降りていったようだった。
 エレベータを降りきって真っ直ぐ歩かされたところで手錠が外された。だからと言って自由が与えられた訳ではない。目隠しをされたまま渡されたのは、手の感触だけで自分の警察手帳だと判る。そしてその後渡されたのは、今外されたばかりの手錠だった。それをいつもの腰のポケットに差し込む。
 「判っているよな。お前にお客の要求を拒む権利は無いんだからな。」
 「・・・・。」
 良子は悔しかった。しかし男の言う事は事実だった。良子がはむかえば確実に困る女性が居るのだ。その女性を守る為にも男達の非情な命令に屈せざるを得ないのだった。
 「十秒たったら、自分でアイマスクを外して目の前のドアの向こうへ行け。」
 その声を最後に男たちは良子の傍を離れた様子だった。心の中で十、カウントしてからゆっくりアイマスクを外す。薄暗い通路だった。目の前に頑丈そうな扉があった。深く息を吸ってから良子はそのドアを開けて中へ滑り込む。
 ドアの内側は薄暗かった。その奥に目を凝らす良子だったが、急に自分に向けて照らし出されたスポットライトの光に目が眩む。その後ろでドアがガチャリという音と共に閉まったのを感じた。
 二方向から自分に当てられる強烈なライトの光に照らされて闇の中に警察官としての制服の自分の姿が映し出され、それを嘗めるようにみつめている視線を感じる。が、相手の姿は逆光の暗闇の中に溶け込んでしまって見えない。
 「だ、誰なの。貴方は・・・。」
 「ふふふ。そんな事は答える必要はない。それより、お前がまず名乗るんだ。」
 「うっ。し、篠原・・・、篠原良子です。」
 「ふうん、良子か。お前、警察官だというのは本当か?」
 「・・・。」
 良子は答えたものかどうか迷った。しかし、どの道、隠しおおせる筈もなかった。
 「そ、そう・・・です。」
 「じゃあ、警察手帳を見せてみろ。」
 その時、あの男たちが自分に警察手帳を返した訳が判った。良子は唇を噛みしめて男等の言うなりになる事に悔しさを堪えながらも、胸ポケットに手を伸ばすしかなかった。警察手帳を翳すことは、これまでも機会が無い訳ではなかった。常に毅然とした態度で自分の身分を提示しなければならないと先輩の警察官からは教えられていた。しかし、この時の良子は差し出す手が震えてしまっていた。
 「本物かどうか調べてやる。こっちへ投げて寄こせ。」
 本来、警察手帳というものは携行する際には紐などで身体に繋ぎとめておかなければならない規則になっている。しかし、先程部屋に入る直前に返して貰ったばかりで、何も留めるものが付いていなかった。
 良子は投げる代わりに身体を屈めて床に警察手帳を置くと前に向けて床の上を滑らせる。そして男の手前でそれは止まり、男に拾い上げられたのが気配でわかった。
 「ふうむ。城南警察署、生活安全課、巡査・・・。篠原・・・良子か。警察官としての地位は一番下っ端ってことだな。」
 良子は男の言い方に見下したようなものを感じて反発を憶える。しかし、同時に警察官に関して事前にそれなりの知識を持っているようにも感じる。かなりの警察フェチなのかもしれないと思うと、油断ならないものを感じた。
 「ほう、ここに電話番号が書いてあるな。お前、上司の名は?」
 男は警察手帳に挟んである名刺を調べているようだった。
 「課長は生活安全課の立石課長・・・です。」
 嘘を言っても始まらないことは十分に承知していた。
 「今から電話を掛けて確かめてみる。」
 「そ、そんな・・・。こ、困りますっ。」 
 しかし、男は良子の言葉を意にも介さない風で、持っていた携帯電話のボタンを押していた。
 「あ、城南署の生活安全課ですか。ああ、そう。そちらに篠原って巡査が居るかな。・・・。あ、そう・・・。あ、今、居ない。・・・。ああ、非番か。それじゃ、上司にあたる人は?・・・。あ、立石課長、そうそう。あ、出張中かあ。ああ、それじゃあ、また電話することにします。どうも。」
 ガチャリという音の後にツーっという電話が切れる音がする。
 「まんざら嘘ではないらしいな。そらっ。これは返してやる。」
 暗闇の中から放られた警察手帳を危うく取り落としそうになりながらも何とかキャッチした良子だった。
 「お前。どういう事情か知らないが、俺の言うことは何でも聞くそうだな。店の奴がそう言ってたぜ。どうなんだ?」
 「・・・。」
 良子は返答に窮した。(そうです)という訳にもゆかなかった。
 「じゃ、試してみるかな。まず、そのスカートの前を両手で掴んで、その下に穿いているものが見えるように捲ってみな。」
 「えっ、そ、そんな・・・。」
 「ほらっ。早くやってみろよ。言うこと、聞かないんなら店の奴等を呼ぶだけだぜ。」
 「ま、待って。・・・。くっ・・・。」
 良子は自分のせいで公衆電話ボックスの中でスカートを捲り上げさせられた女性の事を思い出していた。どんな思いだったか判るように良子には思えた。
 ゆっくりとスカートの前の部分を両手を揃えて掴むと上へ持上げる。
 「ほう・・・。白いパンティか。やっぱり男には白いパンティが一番そそるからな。もうちょっとスカートを持ち上げろ。・・・。そう、そうだ。パンツ丸見えってやつだな。いい、いい。そのままの格好で暫くじっと立ってろ。」
 「くっ・・・。」
 パシャッ。音とともにスポットライトとは別の閃光が走る。どうやらストロボを焚いて写真を撮られたらしかった。自分からスカートを捲って下着を丸出しにしている格好を撮られたのだと思うと、悔しさが込み上げてくる。暫くその恥ずかしい格好のまま焦らされるように立たされていた。
 「お前、確か手錠を持ってる筈だったな。出してみろ。いや、スカートは下すんじゃない。スカートを捲ったままだ。」
 良子は片手はスカートの裾を持ったまま、もう片方の手を尻のポケットに伸ばす。
 「その鍵はどうした?」
 「・・・。たぶん、店の人が持ったままだと思います。」
 「スペアキーは持ってないんだな。」
 「持ってません。」
 「まあ、いい。後で身体検査で調べてやるっ。あと、さっきまで目隠ししてたろ。あれはどうした?」
 「そ、そこに落ちてます・・・。」
 「そうか。よし。もうスカートを下していいから、目隠しを拾って自分の目に当てるんだ。・・・。そうだ。そしたら手錠をこっちへ向けて床を滑らせてよこせ。」
 良子は言われたままにするしかなかった。
 「ふうん。これが本物の手錠かあ。いい感触だ。さてと、俺はちょっと臆病な性格なんでね。お前が手出しできないと分かってても不安なんでね。手錠を掛けさせて貰うぜ。さ、後ろを振り向いて両手をこっちへだしな。ほれっ。さっさということをききな。」
 良子には男の言う通りにするしかないのが悔しかった。ガチャリという非情な音がして、良子の両手が背中で拘束された。
 「さ、これでたっぷり可愛がってやれるぜ。そら、こっちを向きな。」
 男の手が乱暴に良子の胸元を掴むと男のほうへ向き直らせる。
 「あ、いやっ・・・・。」
 しかし、良子には逆らうことが何も出来ない。
 「これが本物の警察官の制服かあ。やっぱ、コスプレ嬢の安物の贋制服とは訳が違うわな。いい感触だぜ。」
 男はそう言いながら胸元から腰回りに次第に手を下して良子の身体をまさぐっていく。男の両手が左右から良子の腰骨のあたりをしっかり捉えると、親指を脚の付け根に沿って下腹部へ向けてなぞり始める。
 「うっ・・・。」
 堪らず良子はうめき声を洩らしてしまう。
 「ほう、感じてきたようだな。もっといい気持にさせてやるぜ。ほれっ。」
 今度は男は手の平を広げて良子の太腿のあたりを外側から嬲り始める。股間の中心のほうへは手を伸ばさないのはわざと焦らしているに違いなかった。やがてはその部分を蹂躙されるのだと思うと、その予感に身体のほうが余計に反応してしまうのだった。
 「や、やめて・・・。さ、触らないでっ。」
 そんな抗議の言葉で男が赦してくれる筈もなかった。今度は両手の親指を腰骨の下辺りに当てて、そこを支点にしながら良子の腰を両側から揉み始め、伸ばした薬指の先が尻たぶをなぞり始める。
 「あぅ・・・っ。」
 良子は声にならない溜め息を思わず漏らしてしまう。
 「いいのか・・・。ほらっ。これはどうだ・・・。」
 男は今度は尻タブを両側から持上げるようにして良子の身体を男のほうへ引き寄せる。下半身同士が触れ合うと、男が既にズボンの下の一物を硬くさせ始めているのが衣服を通しても伝わってくる。
 (あっ、駄目っ・・・。こんなこと、されてたら、おかしくなってしまう・・・)
 「ああ、もうお願い。ひと思いに犯してっ。どうせ、私を犯す事が目的なんでしょ。」
 男の手が一瞬止まった。
 「もう我慢が出来なくなったのか。早く犯して欲しくなったか。」
 良子は覚悟を決めた。後ろ手に手錠を掛けられ、目隠しまでされている状態では所詮抵抗は出来ないのだ。どうせ犯されてしまうのなら早く終わらせてしまいたい、そう良子は思ったのだ。
 「犯して欲しい訳なんかある筈ないじゃない。でもどうせやられちゃうんなら、早く終わらせたいだけよっ。」
 「犯すのが目的だったら、こんな高い金を払わなくてもソープで女を買うことは幾らでも出来るんだ。もっと安い料金でな。ここでしか出来ないことを楽しまなくちゃ、こんな大金を払う意味がない。」
 良子には男の表情を見ることが出来ないので、本気で男が喋っているのか判断がつかない。
 「だったら、何が目的なの・・・。」
 「お前が理性を捨てて、メス豚になるところがみたいのさ。」
 そう言うと、良子の下半身に当てた指の先を、いたぶるかのように腰骨のあたりから太腿に掛けてを這い回らせるのだった。


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