良子
- 警察手帳を奪われた女巡査
第三章 騙された若妻
二
マンションから出る時は、近所の目を憚ってといわれ、頭から毛布を被せられた。下半身には何も身につけさせてもらえなかったが、毛布でかろうじて太腿より上は覆われていた。
後ろ手に手錠を掛けられたままだったので、毛布を被せられてからは何も見ることも出来ず、男等に肩を抱えられるようにして車に乗せられた。大きなバンの後部席でシートは倒してあって、そこの上に寝かせられた。逃走を避ける為と足首にも手錠が掛けられ、背中の手錠とえびぞりになるように繋がれた。窓ガラスはすべて目隠しフィルムが貼られて外の様子は見えなかったが、それもその後、アイマスクのような目隠しをされると、それさえも見えなくなった。
男の一人が「あれでシートが汚れるから。ガムテープででも留めておけばいいさ。」と話しているのが聞えた。その後、男がハンカチのようなもので内股を拭うのを感じた。それからなにかの布が股間に押し当てられ粘着質のテープが股の間に通された。恭子は自分の格好の惨めさを想像してアイマスクの下に涙が流れるのを感じた。
車が動きだすのと同時に、緊急自動車のサイレンが身近で鳴り出すのを聞いた。
しかし、それは男等が用意したテープレコーダによる音であったとは、恭子は知る由もなかった。
警察手帳だけは本物だった。警視庁と黒の下地に金の文字で書いてある。見せられた者にはそれが誰のものかは分らない。捜査礼状のほうは、普通の人にとっては見たこともないものなので、戸籍謄本のような書式にワープロで打つだけでそれらしく見えた。
手錠も、大人の玩具の店で仕入れてきたものである。恭子はまんまと仕組まれた罠に嵌まって騙されてしまったのである。
目隠しをされた恭子は、車が止まると再び上から毛布をかぶされ、男二人に抱きかかえられるように車を出る。足首には手錠よりはすこし長い鎖の足枷が填められていたので、すこしずつしか歩けない。
途中から男の一人が毛布に包まれたままの恭子の身体を肩に抱えた。恭子の頭を背中側にまわし、肩から前に降りている恭子の太腿を男はしっかり抱えている。下半身には何も漬けさせてもらえていないので、男の手は、恭子の裸の肌に直に触れている。裸の尻まで剥き出しになっているのか、毛布で隠されているのかさえ、恭子には分らない。
恭子は男に掛かられたまま、どんどん建物の奥に連れてゆかれる。途中で階段を降りていっているような感触があった。
とうとう、何処かの部屋に連れてこられたようで床にどさりと下ろされる。担いできた男が(ふうっ)と荒い息をしている。
恭子の肩が乱暴に掴まれて立たされた。頭から被っていた毛布がはらりと床に落ちるのが感じられる。そこで、やっと恭子は目隠しを外された。
部屋は薄暗い灰色のコンクリートの壁に囲まれた部屋だった。目の前には少し錆びたような鉄の格子の嵌まった檻が、部屋の真中一面にあって、部屋の半分が牢屋のようだった。
檻のこちら側には古びた木の机と椅子がひとつづつあるのみだ。
「囚人服に着替えて貰うので、今着ているものは全て脱いでこの机の上に。」
きつい命令口調で年上のほうの刑事と思っていた男が恭子に言った。
恭子の背中側に男がまわり、手錠の片方の鍵を外す。
久々に両手が自由になって、思わず身体の前に手を廻し身を縮めて恥ずかしい部分を隠そうとするが、男の(早くして!)という命令に、恭子は仕方なく、ブラウスのボタンをはずしてゆく。
下半身は既に裸に剥かれていたので、全裸になるのはあっという間だった。最後にブラジャーを外して机の上に置いた途端に、男の手が乱暴に恭子の手首を取ると、再び後ろ手に手錠が掛けられた。
それから、男は恭子の首になにやら小さな看板のようなものを掛けた。長四角のボール紙の2隅に紐を繋いだようなもので、囚人番号2144と書いてある。
(そこに立って)と命じられ、番号をつけた看板を首からぶら下げたまま檻の前に立たされる。
もう一人の男がフラッシュのついたポラロイドカメラを構えている。閃光が走って、後ろ手で、性器を剥き出しにして隠すことも出来ない格好で写真を撮られる。フラッシュは何度か続き、更に横を向いたり背中を見せたりで四方から写真を続けざまに撮られていった。
一通り写真が取られると、看板が外され、男は檻の入り口の鍵をあけ始めた。
「あ、あのう、服を、服を着させてください。」
男は憮然として振り向いていった。
「まだ囚人服が届いていないんでね。しばらくそのままで待っててもらう。」
にべもなく男はそう言い放つと、恭子の肩を掴んで、牢屋の中に押しやる様にして恭子を中に入らせた。
恭子が牢屋の中に入るや否や、男は入り口の錠を掛け、鍵の束をズボンのポケットにしまう。
恭子は牢屋の中を見まわしてみる。
薄暗い壁に3方を囲まれて、窓はない。牢の4隅の天井からビデオカメラが下がっている。
(監視用なのだろう)と恭子は見当をつける。
牢の中には古びたマットレスが敷いてあるだけのこれも古びたベッドがあるだけで、その他にはガラスの尿瓶があるのみだ。その尿瓶も鎖でベッドの脚に繋いであって、部屋の真中から勝手に動かせないように固定されている。恭子にはそれが牢の4隅に据えられたビデオカメラで撮影する時に、死角に入らないようにする為であるとは思いもしない。
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