自転車乗り
一
良子が手渡されたのは、茶色の紙袋だった。中には何やら服が入っているらしい。受け取った良子は、男等にこずかれるようにして、駅の裏手の便所へ連れ出された。
人通りは少なくはない。が、良子等に関心を寄せている者も特にはなく、人はどんどん通り過ぎていく。男の一人が良子に男子便所に入るように命じた。一瞬良子は血の気が引く気がした。中には誰も入ってはいないようだったが、本当に誰もいないかは分からない。また、いつ誰が入ってくるかも分からない。しかし、男等の命令に背くことも出来ない。
良子は通り過ぎる人々の視線がこちらに向いていないことを確かめた瞬間にさっと男子便所に滑り込むようにして入った。当然、男等が後から付いて入ってきた。
良子は個室のひとつに入るように命じられた。そこのロックは何故か取り去られていて、中から鍵を掛けることは出来なくされていた。良子はひとりでその個室にはいると、扉を閉め、男等の次の命令を待つしかなかった。
「着ているものを全部脱いで、扉の下からこちらへ渡すんだ。」
男の非情の命令は、やはり良子が恐れていたが予想した通りであった。しかし、もはや後戻りは出来ない。
セーターを脱ぎ、扉の下から差し出す。扉の下は覗かれる心配はないが、やや広めに開いていて、手は十分に差し出すことが出来た。男の手が乱暴に良子のセーターを奪い取る。
続いて、ブラウスのボタンをはずしていく。
ブラウスも奪われたあと、スカートのホックに手を掛けるのはさすがにためらわれた。が、もう逃れることは出来ない。大きく息をつくと、良子は意を決して、スカートを腰から抜き取る。
そして、遂にはブラジャー、ストッキング、パンティを男等に手渡さねばならなかった。パンティは今朝穿き換えてきたばかりだったので、あまり汚れてはいなかったものの、内側の布地はかすかな湿り気を帯びている。それを男等に手渡さねばならない自分が惨めだった。パンティは内側の部分を隠すように細かく折り畳んで、そっと差し出した。が、そんなことをしたところで、彼等には何の役にも立たないことは充分承知しているのだった。
次には、渡された紙袋の中のものを身に付けるように命令された。
中には黒の薄手のワンピースが入っている。ぴったりしたボディコンのニットで、子供服かと思うくらい丈が短い。他には白の少しゆるめのソックスとスニーカが入っている。下着はなくて、水泳用らしい透けてしまう白のアンダーショーツのみが入っている。
良子はまず、穿いてきたパンプスを脱ぎ、アンダーショーツを着け、ソックスを穿いてからスニーカに履き替えた。そして、黒のワンピースに腕を通して上から身に着けた。
めいっぱい膝のほうへワンピースをひっぱり降ろしても、股のぎりぎりのところまでしか身体を隠してくれない。まっすぐに立っていれば、アンダーショーツまでは覗けないものの、ちょっとでも身を屈めれば、丸見えになってしまう。白のルーズソックスと黒のミニのコントラストが、良子の白い健康的な裸の素脚をいやが応でも強調させる。
良子のその格好は、ラケットでも持っていれば、ちょっとお洒落なテニスウェアと取れなくもない。ワンピースの襟も前ボタンになっていて、上までぴちっと止めると襟が立って、スポーティな格好ではある。
だが、ラケットも何も無しで、駅前にただ立てば、とにかく目に付く格好ではある。
突然、個室の扉が外から開けられ、良子は無理やり外に引き出された。そして、男は良子の腕を引っ張り上げ、両方の手首に犬用の首輪のようなちいさな手枷をはめていく。それは革製で銀の鋲が打たれていて、ブレスレットに見えなくもないが、フックになっている茄環がついている。その上からそれを隠すように白いリストバンドが付けられた。頭にはおそろいのヘアバンドも男の手ではめられた。
これで、良子はそれこそテニスコートへ向かう女子学生のような格好になった。
誰かが入ってくるか気がきでなかった男子便所から、ようやく良子は連れ出された。通行人の何人かが男子便所から出てくる良子の姿に気付き、怪訝そうに眺めながら歩いて行く。良子は恥ずかしさに思わずうつむいて、無視をするしかなかった。
男のひとりが、いつのまにか良子の前に一台の自転車を引っぱってきていた。それは、明らかに男性用のスポーツタイプの自転車であった。
男は良子にそれに乗るように命じた。その自転車は良子が乗るにはちょっと大きいものであった。ハンドルはドロップタイプの身を屈めて乗るもので、男性用の為、乗るには脚を大きく開いてまたがねばならない。しかもサドルの位置はわざと高めにしてあるようだった。
運動の得意な良子は男性用のスポーツ自転車でも乗りこなせる自信はあった。が、タイトな超ミニのワンピースで乗れば、どんな格好になるかは乗る前から明らかだった。
男は自転車を良子に渡すと、良子の両手にはめた手枷の茄環に針金を通しドロップハンドルのブレーキレバーに良子の手首を離せないように括り付けてしまった。
「早く、自転車の上に乗るんだ。」
男にせかされて、良子は唇を噛みしめながらサドルをまたいだ。脚をぴんと伸ばして、やっとのことでサドルの前部の逆三角形になったパイプフレームをまたぐことができたが、勿論、スカートの下のパンティではないアンダーショーツは男らに丸見えだった。通行人も何人かはちらちらとこちらを見ている。自転車が大きい為、両脚を伸ばして爪先でやっと立ってもフレームが股に食い込んでいる。脚を大きく開いてまたいだ為に、ミニのワンピースは少し上にずり上がって、股間のところで、ショーツが白い三角形になって丸見えで覗いてしまっている。両手がハンドルに針金で縛り付けられている為に、裾を伸ばして下着を隠すことも出来なかった。
「さて、これからあの目の前の三ノ宮公園の周りをいいと言うまで、ぐるぐる走って貰おう。分かったか。」
男はそう命ずると、良子の顎を指でしゃくりあげる。不快な悪寒が良子の背筋を走るが、顔をすこし背けるくらいしか逃れることは出来ない。
男の手が更に、良子の胸元へ降りてくる。そしてさっききっちり填めたワンピースの胸元のボタンを一つひとつ外し始めた。
「い、いや。やめて、、、止めてください。」
良子の必死の嘆願も空しく、ワンピースの胸元はボタン3つ分大きくはだけられてしまった。ドロップハンドルで、身を前傾させている為に、覗きこまれれば、ノーブラの乳房の谷間が隠せない。
「じゃあ、行ってきな。」
良子は背中を思いっきりどんと押された。倒れそうになるのを必死でこらえ、なんとかよろよろしながらもサドルの上に腰を載せ、走り出した。
もし転べば、両手はサドルに括付けられているので、スカートの中を丸出しにして転がっていたかも知れない。
ペダルに足を掛けて、サドルにまたがる時に、うまくワンピースの裾をずらすようにして乗ったので、少しだけスカートを下にさげることが出来た。
ペダルを漕がずに脚をぴっちりすぼめていれば、何とかパンティが覗けてしまうのを隠すことが出来た。しかし、それでは自転車はじきに止まってしまう。止まれば、脚を伸ばして立たざるを得なくなり、スカートがずり上がってしまう。
良子はなるべく脚が開いてしまわないように注意しながらもすこしずつ公園に向かってペダルを漕いで自転車を走らせていった。
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