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文夫と美津子 あとがき





 文夫と美津子は2008年の4月から5月に掛けて作った作品である。勿論、いわずもがなの団鬼六氏の最も有名な小説、「花と蛇」のオマージュ作品である。ちなみにオマージュ作品と似た言葉に贋作、パロディ、パクリなどという言葉がある。贋作は狭義には、本物ではないことを気づかれないように作る作品であると一般的には言われているので、少し外れるかもしれないが、原作者に対する尊敬の念からという意味合いが含まれるのがオマージュ作品ということになるのだろう。
 私のこの文夫と美津子という作品には、もう一人尊敬の意を込めて捧げたい作者が居る。それがイラストレーターの真行寺たつやという方である。
 団鬼六氏の花と蛇を最初に読んだのは、1980年代の初めの頃だったと記憶している。角川文庫から文庫本としてシリーズが刊行されてすぐの頃だったと思う。二回目に読んだのは最初に手に入れた角川文庫版を既に処分していた1990年代の中頃。角川版とは異なる幻冬舎版が発刊されてすぐの頃だろう。その後、2000年になってすぐ後の頃、偶々長く単身赴任を過ごしていた群馬の片田舎にあった中古本取扱店で90年代初期に太田出版というところから上、中、下巻の三冊にまとめられたペーパーバックの復刻版を手に入れたのが経緯だった。この時には幻冬舎版の全冊を所有していたが、内容が角川版から少し手を入れて改編されていて、角川版に準拠していた太田出版の復刻版をどうしても手に入れたかったからだ。
 という訳で、団鬼六氏の描いたプロットや文夫と美津子というキャラクタまでは30年以上に亘って周知していた。それが2008年に突如パロディというかオマージュ作品を作ろうと思い立ったのは、先に挙げた真行寺たつやという人のイラストに出遭ったのがきっかけだ。
 真行寺たつや氏のイラストはネット上で見つけたもので、いわゆるヒロピンサイトと呼ばれるサイト上にアップロードされていたヒロピン画像の一つだった。ヒロピンというのは、ヒロインピンチの略であるのを知ったのは、文夫と美津子を書き始める2008年の3年前である2005年の9月頃だった。敵と闘う女戦士や女探偵が、敵に逆に捕えられあわやというピンチを迎えた瞬間を描いた画像や小説のシーンを総称している。ヒロピンというキーワードの元で検索を繰り返しながら真行寺たつや氏が主に自身の画像を多く投稿していたD2-GIRLSというサイトを見つけたのは、ヒロピンサイト系へ多くのリンクを張っているポータルサイトのひとつでだった。そのサイト名も忘れてしまったし、ネット上からも削除されて無くなってしまっているようだ。
 2005年に最初にこのヒロピンサイトを見つけてからというものの、いろんなイラストレーターの作品で、自分の感性にあったものだけダウンロードして集めるようになった。次第に数が増えてきて、どこにどんな作品をしまっているのか探すのに苦労するようになっていたのが2008年の頃の事だ。
 偶々2008年に自分が関係する職場のある部署の人間が不始末を起しその職場を追われた関係で、幾つかの部署のある特定クラスの職位の者が交替でその勤務を代行するようになった。代行なので本来のその人の職務を遂行するのは難しく、電話番、留守番のようなものだった。それでその代行勤務の日はとても暇になったのだ。いつも勤めている地元の場所ではなく、慣れない都会の真ん中の大きなビルの一室にある事務所で、執務場所もハードディスクを備えていないセキュリティ型のPCが一台あるきりで大してすることもなく、したくても出来ないような環境だった。
 携帯型のハードディスク付きのPCは持ち込むことは出来たので、それに自分の内職用のデータをUSBメモリに入れて携帯PCで編集作業をするようになった。その時にやったのが膨大になってしまったヒロピン画像の整理だった。作家別とシーン別のそれぞれで分類してファイル分けをして一覧表を作成し、こんな画像を捜したいという時に、作者とシーンの両方から検索してすぐに見つけられるようにしたのだ。
 そうして出来た大量の画像を再利用したいと思って思いついたのが、過去の作品のオマージュ作品を作り、それの挿絵としてヒロピン画像の一部を使うことを思いついたのだ。
 真行寺たつや氏の作品は初めて観た時から、いろんなストーリーが想起される創作意欲を湧き立てさせるような画像が多かった。それで題材として選んだのが団鬼六氏の長編小説、花と蛇の中のキャラクターのパロディなのだった。したがって、ストーリーとしては画像のほうが先にあって、その画像から思いつくままにストーリーを組み立てていったということになる。途中からはストーリーが先で挿絵用の画像を捜すという部分も出来てくるようになる。いわゆる相乗効果で作品を書き進めていったような具合だった。

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