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妄想画像

座る女



 「じゃあ、膝をもう少し立てて貰えますか。」
 「えっ、こ、こうですか・・・。」
 「あ、そうそう。足首をもう少し手前に引いて・・・。ああ、いいですね。」
 真弓は裾からスカートの奥が覗いてしまわないか、気が気ではない。スカートはかなり長めのドレープのあるものだから、そう簡単には中が覗いてしまうとは思えない。しかし、これ以上膝を立てさせられたら、どうか判らないと不安になる。
 「あ、そんなに緊張しないで。大丈夫ですよ。スカートの中は写らないように気を付けてますから。下着は見えてませんから。もっとリラックスした顔して。」
 真弓は下着と言われて、ドキッとする。下着が見えてしまう筈はないのだ。だってスカートの下は何も着けていないのだから。いや、着けさせて貰えなかったからだ。もし、覗いてしまうとしたらもっと恥ずかしい姿なのだ・・・。そう思うと、耳が熱くなる気がしてくる。
 「肩をもう少し前に突っ張って。顎を若干上向かせてみて。あ、そんな感じかな。いいよ。」
 真弓はさっきからずっと両手を背中で組んだままでいる事を気にしていた。何時、前で組んでくれと頼まれるのではと、その事も気が気でない。両手を前に出してくれと言われても出来ないからだ。
 (まさか、私が後ろ手に縛られていることをこの人たちは知っているのでは・・・。)
 そんな不安が頭をよぎる。カメラマンたちの前に立たされる直前に親指と親指の付け根を細い針金のようなもので括り付けられてしまったのだ。ちょっと観た目には気づかれないかもしれないが両手首を縄で括られているのと変わりない。両手の自由が完全に奪われているのだ。しかしカメラマンたちに自分が縛られていることを絶対に気づかれてはならないと、真弓はそればかりを考えていた。
 「あ、あの・・・。まだ、撮影は終わりませんか。」
 「あ、疲れてきました?もうちょっとだけ。あと、ちょっとで終りです。もう少し表情を変えたのが欲しいんで。」
 「え、こうですか。」
 真弓は思いっきり作った笑みを浮かべてみせる。
 「ああ、そうじゃなくて・・・。そうだな。ちょっと困ったような表情のほうがいいな。」
 「え、困った風・・・。」
 真弓はますます不安になる。実際、困っているのだ。スカートの下は何も着けてない完全なノーパン状態なのだ。それなのに両手の自由を奪われて座らせれている。困った表情が出ないように極力気を付けていたのだ。それを自分の内心を露わにしろと言われた気がしたのだ。
 「あ、いいなあ。そうそう。そんな感じ。ああ、いいねえ。」
 カメラマンは真弓がちょっと困ったふうな表情を見せた途端に、次々とシャッターを切っていく。



 真弓は影岡に呼び出された時に嫌な予感がしたのだった。その予感は影岡の事務所に入った時にすぐに現実のものとなった。
 「今日は君に仕事をして貰うからね。」
 「え、し、仕事って・・・。」
 弱味を握られている影岡に何かを命令されたら、そう簡単には断ることが出来ないのだ。
 「何、簡単なことさ。モデルの仕事だよ。ちょっと今日、撮影があってね。予定していたモデルが急に都合が悪くなったんで代りを務めてもらうだけさ。カメラマンが指示するから、その通りにポーズをとったり表情をしたりするだけのことさ。」
 そう言われ、不安を感じながらも影岡が使っているスタジオの控室に入った真弓だった。影岡がクローゼットから出してきた服が、それほど露出の高いものでなかったので一安心した真弓だった。
 「あの、その前にお化粧を直しておきたいので・・・。」
 そう言ってトイレに立とうとした真弓を影岡がぴしゃりと制した。
 「化粧はプロのメイク師がやってくれるんで、お前が自分でやる必要はない。カメラマンをもう待たせているんですぐ着替えてくれ。」
 そういう影岡に逆らうことが出来ずに、つい部屋の隅にあるカーテンの裏で渡された衣装に着替えさせられた真弓だった。
 カーテンの外へ出ようとする真弓は、逆に中に入ってきた影岡に肩を掴まれる。
 「ちょっと後ろ向いて。」
 強引に壁のほうを向かされた真弓は手首を捉えられる。
 「えっ、何・・・?」
 訊こうとした真弓に返事がかえって来る前にもう一方の手首も掴まれて無理やり背中へ回される。気づいた時には両手の親指同志が細い針金のようなもので括り付けられていたのだった。
 そこから影岡の動きは素早かった。さっと身を屈めると真弓が纏ったばかりのワンピースの裾の中に手を差し込むと、穿いていたパンティをその上のストッキングごと下げてしまったのだ。
 「あ、嫌っ・・・。」
 真弓が抗おうとする隙を与えずに、影岡は下げたパンティとストッキングを足で踏みつけ、真弓がそこから足を抜き取るしかないようにさせてしまったのだ。後ろから強引に腿の裏側を掴まれ持ち上げられてしまうと、パンティとストッキングが真弓の足首からいとも簡単に抜き取られてしまう。
 「今日はこのままスタジオに入って貰うからね。」
 裸足の足に履かされたのはヒールの高いサンダルだった。生脚であるのが自然に見えるようなサンダルだった。
 (メイクさんに化粧をされる時におトイレに行かせて貰うように頼むしかないわ)そう思っていた真弓だったが、スタジオに肩を押されるようにして入った現場にメイキングの担当者は居なかったのだった。
 「あ、あの・・・。お化粧は?」
 「いや、今のままがいい。ナチュラルな感じで撮って貰いたいんだ。じゃ、カメラマンさん。お願いします。」
 そう言われてカメラマンや照明担当がまつステージに立たされてしまった真弓だったのだ。



 「じゃ、あと3カット撮ったら一旦休憩にしまあす。」
 カメラマンのその声に、ほっと胸を撫で下ろした真弓だった。さっきから腰のあたりをもじもじさせながら、何度も(おトイレ休憩をさせてください)と言い出せなくて言葉を呑み込んでいたのだ。思いもかけず1時間近く掛かった撮影の間に、真弓は殆ど限界状態に達していた。
 「はあい。いいです。ちょっと休憩に入りまあすっ。」
 アシスタントディレクターらしき若い男がスタッフ全員に声を掛ける。
 真弓はさっきから姿が見えない影岡を探しながら、極力不自然にならないように脚を一旦まげてからゆっくり立上ると、すぐ傍に置いていた自分のポシェットを何気なく後ろ手のままで掴むとスタッフの男達の横を擦り抜けるようにして廊下へ出ようとした。しかし、その腕はすぐにがっしりと強い手で掴み獲られてしまう。影岡が何時の間にかすぐ横に立っていたのだ。
 「トイレかい?僕が案内するよ。」
 そう言うと、後ろ手を外すことの出来ないままの格好で廊下に連れ出された真弓だった。
 「手、手を・・・解いてください・・・。」
 周りの誰かに聞かれないように、蚊が鳴くほどの声で俯きながら小声で話した真弓だったが、その訴えは完全に無視された。
 「さ、ここへ入って。」
 真弓が連れ込まれたのは、殆ど家具も荷物も置いてないドレッシングルームのような小部屋だった。正面に大きな姿見があるほかは、小さ目のコーヒーテーブルのような台がひとつあるきりだった。
 「えっ、ここって・・・。」
 真弓には少なくともそこが女子トイレではないことはすぐに察知した。
 「悪いね。今、女子トイレは工事中でね。今日は偶々女性スタッフも入っていないんで、君だけなんだ。我慢してくれる。」
 そう言いながら影岡は部屋の隅に置いてあったらしい透明なガラスの器をコーヒーテーブルのような台に載せて部屋の中央へ据える。ガラス器はちょっと大き目の金魚鉢のような形のものだった。
 「ま、まさか・・・。これで?。」
 振向いて見た影岡はドアの傍に立って素知らぬ顔をしている。しかし、真弓にはもう言い争っている余裕はなかった。我慢の限界に達していた真弓は冷静に考えることが最早出来なかった。影岡はドアの近くで見ないようにするつもりなのか、明後日のほうを向いている。それで影岡に背を向ける形で立つと大きな姿見を正面にすることになってしまう。
 洩れ出す直前を迎えようとしていた。真弓は雫が裾を濡らさないように後ろ手に拘束されたままの手でスカートの裾を引っ張ってたくし上げる。ガラス瓶は股の位置よりすこし低いぐらいの高さにある。真弓は意を決してその台の上のガラス瓶を跨ぐようにして膝を少し下げる。
 目の前にあさましい格好をした自分の姿が写っているのがどうしても目に入ってしまう。しかしその惨めさも自然の摂理には打ち勝つことが出来なかった。
 強烈な尿意と裏腹に恥ずかしさがすぐには尿動口の括約筋を緩めては呉れない。しかしジョロっという一回の音が真弓の張りつめていた神経を崩落させてしまった。
 ジョボ、ジョボ、ジョボというけたたましい音と共に真弓の股間から熱いものが迸りでる。最早、真弓にも止められない。
 (ああ、早く出しきってしまいたい・・・)
 そう思った瞬間、突然部屋の明かりが消えて一瞬真っ暗になる。が、その時、真正面の姿見だった筈の場所にカメラを構えたカメラマンと照明係、助手らの姿を見た気がした。
 「あ、嫌っ・・・。」
 思わず声に出して横を向いた真弓だったが、気づいた時には部屋の明かりは元通りになっていて、目の前には今までと同じ姿見があるだけなのだった。
 (えっ、今のは何だったの・・・)
 真弓が幻を見たような気持ちで動揺していると、何時の間にか影岡が背後に迫ってきていた。背中に寄りそうように立つと、真弓の腰に手を回して手にした一枚のティッシュで真弓のまだ雫が残っている股間を拭ってくる。真弓はただ為されるがまま身じろぎも出来なかった。
 「写真の出来を確認してくるから。」
 そう言って影岡は静かに部屋を出ていく。真弓は親指の戒めを解いてと言う間もなかった。茫然と立ち尽くす真弓に入れ替わりにドアをノックする音が聞こえてくる。慌ててたくし上げていたスカートをはらりと元に戻すのと男が入ってくるのがほぼ同時だった。例のアシスタントディレクターだった。
 「失礼します。プロデューサの影岡さんに片づけるように言われましたので。」
 そう断わると、こともなげに部屋の中央に置かれた台の上のガラス瓶を両手で持ち上げる。
 「あ、そ、それは・・・。」
 真弓がその先の言葉を呑み込んだ。まだ両手が縛られたままで、それ以上事態を説明する言葉が見当たらなかった。
 アシスタント・ディレクターは自分が片付けるように言われたものが何なのか全く頓着していない風で、どぎまぎしている真弓に笑顔を見せるとお辞儀をしてみせた。
 「お疲れさまでした、今日の撮影。凄く真に迫った表情をされるので吃驚しました。やっぱりプロデューサが言われた通りでした。本当にノーパンで縛られているのじゃないかと私も思ったほどでした。」
 「え、あの・・・。」
 真弓にはアシスタントディレクターが言っている意味がすぐには理解出来なかった。
 (本当にノーパンで縛られている・・・?)
 真弓は撮影スタッフが、自分がノーパンで縛られている女を演じていたのだと思って撮影していたらしいことに薄々気づき始めていた。
 (だから、自分がずっと両手を後ろに組んだままでいることに何の不審感も抱かなかったという事だったのだろうか・・・。そんなシーンが最初から想定されていたという事なのだろうか。)
 「じゃ、失礼します。」
 ぺこりとお辞儀をすると、アシスタントディレクターが金魚鉢のようなガラス瓶を両手で抱えて出て行ってしまった。
 影岡が戻ってきて、漸く親指の戒めを解かれたのはそれから暫く経ってのことだった。
 「今日はいい画が撮れたというんで、撮影はもうアップだそうだ。ご苦労さん。」
 「あ、あの・・・。」
 「何? ああ、ギャラの件? だったらあの写真にどれだけ買い手が食いついてきたか判った時点でまた相談するよ。期待してていいよ。」
 影岡はそう言うと、やっとのことで両手の自由を取り戻した真弓を置いて出て行ってしまうのだった。





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