disgrace

SM一括り(5)


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その四 羞恥と矜持


 そして最後にこれらとは異なるジャンルと敢えて言いたい、日本的な淫靡な 世界、団鬼六の世界を挙げたい。この世界を表現する適確な言い回しはいまだ 見当たらない。
 ジャンルとして一番近いのは、D&Sの世界である。が、欧米風のD&Sと は似ているようでどうにも同じに出来ない世界である。狙っている世界が明ら かに異なっている。

 気高い女主人公が下劣な悪者に捕らえられて責められるというところまでは D&Sの世界に非常に似通っている。が、責めの手段として用いられるものが、 鞭などの痛みや、ナイフによる恐怖といったものではなく、羞恥心を苛む辱め であるというところに大きな違いがある。勿論、団鬼六の名作「花と蛇」にも 鞭でいたぶるシーンや乳首を糸で縛って錘を吊るす拷問シーンなどもある。
 が、それらはあくまで悪者に屈服するのを潔しとしない女主人公が堪えてい るというところに大きな意味があるので、痛みを与えること自体には意味はな い。下劣な悪漢の前に、痛みぐらいのことで屈服することが堪え難いことなの である。いわば、羞恥心への責めと、屈服を堪える気高さが最も重要な要素な のである。
 辱めるということを表す日本語に、「恥辱」と「羞恥」がある。似通った言 葉だが、本来の意味は異なる。「恥辱」は外部から与えられる辱めで、地位や 名誉を貶めるような行為である。「羞恥」は人間の内部から沸き起こってくる 恥ずかしさで、地位や名誉の毀損とは微妙にことなる。
 縛られた女が剃毛を受けたり、男等の面前で失禁ぎりぎりまで堪えさせられ たりするのは、羞恥心に対する陵辱で、肉体的な痛みや苦しみとは異なる。  むしろ、ずいきなどの物を使って、嫌がる女を縛って無理やり恍惚の放心状 態までいかせるなどは、快感を引き出すものであって、肉体的な苦痛ではない。 しかし、犯される女主人公が憎き相手の男等の面前でいかされることに、最後 まで精神的な抵抗を試みるからこそ、その被虐が快楽に繋がるのであって、男 に犯され、快感に狂ってしまうようでは団鬼六の醍醐味を味わうことは出来な い。日本映画界の過去の団鬼六作品の映画化の多くが、この点で鬼六世界の再 現に失敗している。
 お姫さまが裸で縛られて、馬に跨らせられて引き回されるのは、基本的にD &Sだろうが、羞恥とも微妙にラップする。結末をどうしたいかによって、こ の二つの世界は微妙に違ってくる。貶められて悲哀に呉れる姿を表現するのか、 貶められても堪えて屈しない姿を表現するのかという違いだ。

 S&M、D&S、B&Dに擬えて、敢えて英語を使って表現すると、あまり こなれた言い回しではないが、ディスグレイス(羞恥への責め)&レジスタン ス(屈服への抵抗)、D&Rとでもなるのだろうか。

 これら、S&M、D&S、B&D、そしてD&Rに共通する重要な要素とし て縛りがある。女体を後ろ手に縛り上げることが共通の状況として現れてくる のだが、それらの向かう方向は4つのもので大きくはないが、微妙に異なって くる。その微妙な違いを認識しなければ、これらの淫靡な世界を本当に理解す ることは出来ない。


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