エッセイ
性的興奮に対する文化的意識の差異 1
ミニスカとパンチラ
洋の東西を問わず、性的関心というのは淫靡なものである。しか
し、そうは言っても、性的興奮というものには、文化的な要素が多
分にあって、洋の東西というより、民族的、文化的な違いの要素が
多分に働いている。
ミニスカとパンチラに対するものを例にあげる。
ミニスカートは、欧米人にも日本人にも性的な魅力を感じさせる
コスチュームの様である。しかし、その受け取り方、特に男性にと
ってであるが、それは大きく異なるように思える。
日本人男性にとってミニスカートとは、もしかしたらパンティが
覗いて見えるかも知れないという意味で性的興奮を与えるもののよ
うだ。つまりパンティを隠しているスカート、そしてそれを見せて
しまうかもしれないミニということで、関心はスカートの裏側に集
中している。
しかし映画などで垣間見る欧米での意識は、ミニスカートが性的
なのは、性的な関心である太腿そのもをを露わにするということの
ほうが重要そうに見える。脚を見せるということに刺激を感じるの
であって、その先に下着が覗いて見えるかどうかはあまり関心がな
い。もし見えても、性的な刺激度合いはそれほど変わらないようだ。
例えば、ミニスカートで普通に直立している女と、しゃがんで奥
が見えそうな女が居るとする。多分、日本人の殆どはしゃがんで見
えそうな女のほうにより欲情する筈だ。しかし欧米人には、脚や腿
がよりよく見える立った女のほうに欲情するのではないかと思える。
またもうひとつの例では、少し短めのスカートの女と、腿の付け
根ぎりぎりのショートパンツの女が居るとする。殆どの日本人は、
ミニスカートのほうに欲情し、ショートパンツは興ざめだと思うだ
ろう。どんな格好に乱れたとしてもパンティは覗かないからだ。し
かし、多分間違いなく欧米人はより腿の露出の大きい短いショート
パンツのほうに欲情するに違いない。
ここでは、日本人は女の腿に感じないとか、欧米人は女の下着に
興味が無いなどと言っているのではない。どちらも性的関心事には
違いない。どちらにより多くの欲情を感じるかという微妙なニュア
ンスのことを問題にしている。
欧米ではごく普通で、最近では日本でもよく見られるようになっ
た短いスカートのチアガールがある。飛んだり跳ねたりする度に、
短いスカートの下の下穿きが丸見えになる。
日本人の反応は、このスカートの下(この場合にはパンティとは
言わないのだろう)のウェア、アンダースコートとでも言っておこ
うか、この下穿きが見えた時にそれを凝視しているのは、ちょっと
気恥ずかしい。しかし男心にはその時を見過ごしたくなくて見てい
るのだ。
しかし、欧米人はチアガールのパンツが見えようが、あまりその
こと自身には関心がないようだ。チアガールが最初から脚を露わに
していることで性的魅力があるのであって、チアガールを最初から
じろじろ見ていることは恥ずかしいが、スカートの中が覗く瞬間に
特にそれが増すということではないらしい。
スペインのジプシーの踊りフラメンコで、女性が長いスカートを
ひらひらさせて、時折腿の奥に下穿きが覗くことがある。それに日
本の男たちは羞恥心を感じるが、欧米人にはそんなことはない様子
だ。南米のリオのカーニバルで女性特有の衣装。ハイレグの水着の
ような衣装は日本人でもはっとする。しかし、じっと見ていて性的
な興奮を果たして誘うものだろうか。人にも依るだろうが、多少グ
ロテスクな感じもあり、目のやり場に困るだけのような気もする。
日本人はちらっと下着が見えそうになるフラメンコが、欧米人は
下半身の露出度の高いカーニバルがやはり好きなのではないだろう
か。
おそらく欧米にはパンチラという言葉はないのではないだろうか。
日本語にも三省堂の国語辞書にもパンチラという言葉はないかもし
れないが、日本人なら誰でも分かる感覚である。日本人にはミニス
カとパンチラは切っても切り離せない関係があるが、欧米人には、
何の関係があるのか、分からないのではないだろうか。
そう考えると、有名なマリリンモンローの地下鉄の通気口から吹
き上げる風で、ふわあっとスカートが持ち上がり、それを抑えるモ
ンローのあの仕種に日本人と欧米人は全く異なるものを期待してい
たのではないかと思えてくるのである。片方は下着が露わになるこ
とを、片方は太腿が露わになることを。
これまた有名な映画のシーンで、「氷の微笑」の中で、シャロン
ストーンが男刑事たちの尋問の時、下着を付けないスカートの奥を
脚を少しだけ開いて覗かせるシーンがある。あのシーンは日本人の
感覚なら、下着をつけて挑発する演出だったろう。逆に、欧米人に
は下着をつけたままでは、あのシーンは意味が無かったと思われる。
遠くから見ると、ミニスカートの女性が歩いてくる。(おっ)と
思って見ていると、近くに来た時それがキュロットパンツだったと
知ってがっかりする。これは普通の日本人の感覚である。欧米人に
はこれはどう映るのだろうか。
よく考えてみると、挑発的なショートパンツというのは欧米でよ
くお目にかかるが、ミニスカートのようだがスカートでないという
この妙な穿き物キュロットパンツというのは欧米ではあまり見たこ
とがないような気がする。スカートではない、従って下着を覗かれ
る心配がない、しかしスカートのように見える、つまり下着が見え
るかもしれないと男気をそそる、そんな穿き物は、存在価値が全く
ないのかもしれない。
面白いのは、韓国にはキュロットとは呼べないかもしれないが、
ズボンとスカートの中間のような物を穿いている女性が驚くほど多
い。街で女性と言えば、殆どがこれを穿いているような気さえする。
ミニスカートは殆ど見かけず、女性で脚を出しているのは、この手
のミニスカート丈のズホン風のもの。そうでない女性は脚を見せな
いロングスカートか普通のズボンである。
これも根のところでは日本人と同じ、下着を覗かせることからの
今の日本人からすれば異常なまでの忌避という感覚があるのではと
思うのだが。
2002.8.20 記